占いと魔法とオタク
幻想自警団通信文Z

あるセミナー商法の実際

さてここで、いわゆる「セミナー商法」と呼ばれるものの実態を<幻想自警団翰林院(げんそうじけいだんかんりんいん)>の協力のもと、暴いておきたいと思う。以下の文章は<自己啓発セミナー「こころの商品化」の最前線(柿田睦夫:新日本新書)>からの引用文に、<幻想自警団翰林院>スタッフが解説を付けたものである。これを読んでその手口がいかに悪辣か、実感してもらいたい。

解説

<幻想自警団翰林院>註:詳しい話は実際の書籍を読んでいただくとして、とりあえず<催眠法>に関連する部分だけを解説します。また、催眠法には色々な専門用語があるのですが、今回はそういった一般的でない用語はできるだけ使わないようにして解説します。

以下、「・」の後が書籍からの引用で、その下が解説です。

あるセミナー商法の実際

・自己啓発センターは、閉ざされた空間で長時間、ゲームや講義をくり返します。(P19)

解説:被験者に対し苛酷な労働を課してのち、疲労困ぱいしたところになんらかの暗示文を入れると、疲労から判断力を失っているため、抵抗されること無くその暗示を受け入れてしまうことがある。これは過去、中国において開発された洗脳技術のうちの一つである。

・「私をナミさんと呼んでください」。少し外国なまりで語り始めました。(P22)

解説:セミナーの講師が自らを親しげな名前で呼ぶように要求している。さらにその後上記引用文の後で彼女は、日本で生まれ、アメリカで医師になった後、このセミナーのすばらしさを分かち合うため日本に来たと<自称>する。一般的に<平和的>な方法で<暗示文>を有効に働かせるためには<術者>と<被術者>との間にどうしても<信頼関係>が必要になる。そのためにここではその<信頼関係>を築くための様々な<威光>(わざと外国なまりを使ってアメリカで医師であったことを話す、など)を使いつつ、「ナミさん」という<親しげな呼び名>(実際には全く親しくは無い)で、あたかも古くからの友人であったかのような錯覚を起こすように誘導し、ナミは催眠法的な意味での<信頼関係>を築こうとしている。

・「なぜこのコースに参加したのか、シェアしてください」とナミさん。十人近く(翰林院註:この人数を覚えておいてもらいたい)が手をあげました。シェアは、自己啓発セミナーでよく使う言葉。その意味をすでに知っている人が多いことに驚きました。(P22)

解説:<シェア>とは「報告する」というような意味。この後次々とこのセミナー経験者の成功例が<生徒の側から>報告され、自分もそうなりたい、という意見が続出する。これはいわば健康食品の広告における<体験談>のようなもので、もちろんそれを<シェア>した生徒は<サクラ>である。また、被術者は自分以外の人間が既に自分より多くのことを知っていることに驚かされ、それに続く<体験談>で判断力が一気に低下し、自分も置いて行かれないようにしなければならないという一種の<焦り>を掻き立てられ、術者(この場合セミナーの講師)に次の作業へ容易に誘導されてしまう。

・「私がXXXX(翰林院註:セミナーのコース名。一応名称を伏せます)に賭けることは、私が○○である可能です」(P23)

解説:以後、○○に「なる」のではなく、自分の既に持っている「可能」を認識して活用する、と言う意味で、次々と生徒からなりたい自分ややりたいことを<シェア>させていく。この辺りから徐々に催眠の色彩が強まっていく。この文章は日本語としておかしいため、聞いた人間は混乱する。そこで混乱しているうちに(つまり判断する暇を与えずに)「可能」という言葉を強調し、「可能です」という言葉をすり込む。つまり、「既に自分の持っている<可能>を活用する」という暗示を密かに入れて、最終的には「自分の持っている<財産>をセミナーに投じることは<可能>です」というセミナー側の<真の目的>に繋がる<目に見えない暗示>をすり込む。

この後中国の軍隊式の洗脳技術を応用した過酷なディスカッションが続き、生徒たちは疲労困ぱいの中、徐々にセミナーの誘導に適応し始め、最終的にセミナー側の言うことに対して疑いを持たなくなっていく。

・「可能を、その人がその可能を自分の可能とし、その可能のために行動がとれるようにする可能」(P36)

解説:これはもはや完全に<催眠誘導>である。この意味不明な文章を理解しようとすればするほど意味不明になり、結果として意識的な判断は放棄され、被術者は<フィーリングの世界>に導かれる。そこはつまり<催眠状態>への入り口である。そうなった後に被術者に施される<催眠暗示>は「エンロール」と呼ばれる作業の必要性である。「エンロール」とは早い話がセミナーの<勧誘>作業のことであるが、この<勧誘>は実はセミナーのプログラムの一つとして扱われる。すなわち、<修行>であるため<勧誘>はボランティアで行われるのである。セミナーは生徒から金を取った上で、更にその生徒に営業活動を<無報酬>でやらせ、その上で上級セミナーを薦めて更に高額の料金を生徒に支払わせる。悪辣の極みである。

・「シリーズ(翰林院註:セミナーの上級コース)に参加したい人」

挙手したのは約十人(翰林院註:始めに<シェア>した人数と同じであることに気が付かれただろうか。そこから彼らが<サクラ>であることが想像される)。予想以上に少なかったのか、ナミさんの表情が一瞬、固くなりました。

ナミさんが「参加したいが時間がない人」「参加したいがお金がない人」と声をかけました。(P38)

解説:ここでナミは焦っている。本来の目的である<高額セミナー>の受講者がゼロ(サクラしか手を上げなかった)だったのだ。そこでナミは「参加したいが時間がない人」「参加したいがお金がない人」という二つの質問による<前提条件のすり替え>を行うことでこの危機を乗り切ろうとした。わかりやすく解説すると、高額セミナーへの参加を希望しなかった人間は、そもそも<参加したくない>から断ったのであって、他の理由は問題ではない。だがそこに「時間が無い」「お金が無い」という<具体的な理由>を持ち込み、それと<参加したくない>という<前提>を<すり替え>ることで、結果的に<参加したくない>から参加しないのではなく、本当は参加したいけど、理由があって<参加できない>のだ、というセミナーの思惑に一段と近いところに生徒の考えを<誘導>したのである。これによって参加の意思はあるがお金や時間が無いという考えに<誘導>されてしまった希望者の数は30人に増え、直後その生徒たちはセミナーの<アシスタント>と呼ばれる人間たちに囲まれ、<説得>を受けることになった。

その後ナミは<追い込み>をかけ、「何か、バナナのたたき売りの口調にも聞こえる(P38)」調子で高額セミナーへの参加を煽った。

以上がこのセミナーの術式の大体の経緯である。

悪質商法への注意

上記の内容を読んで、あなたはどのような感想を持たれただろうか。念のために書いておくと、今回解説したセミナー商法は典型的なものではあるが、反面、古いタイプのものだと言えるかもしれない。現在では慈善活動や芸術活動などを通して悪辣な商売を行う連中もおり、こういった悪質商法は現在では多くのバリエーションを持っている。そしてそこに<オカルト>を持ち込んだ商法があることは改めて言うまでも無いだろう。以前UFO関連の団体がクローン人間を製作したなどと発表(実際には事実無根だった)して世間を騒がせたことがあったが、あれなどもそういった悪質商法の変種であると言えるかもしれない。オカルティストは自分が常に危険の周囲を徘徊していることを忘れてはならない。好事家はそのことを理解した上で楽しむことが必要である。

2005/2/14

追記

上記悪質商法は催眠法による誘導だけでまだマシな方であるが、宗教的悪質商法になって来ると、薬物の摂取をさせられることもあり、危険である。また、オカルト的な悪質商法などでは過去の自分の行いを告白することを強要されることがあるが、それが他者に漏れては困るような内容であった場合、それを元にゆすりをかけて金品を請求したり、何らかの無理な注文をしてくる連中もいる。くれぐれも注意されたい。

2005/2/19

「理論編その1」へ戻る

「更なる深淵へ」の目次へ戻る

「占いと魔法とオタク」のホームへ戻る